マダニの活動が盛んな春から秋にかけては、マダニに刺される危険性が高まります。
草むらや藪など、マダニが多く生息する場所に入る場合には、長袖・長ズボン(シャツの裾はズボンの中に、ズボンの裾は靴下や長靴の中に入れる、または登山用スパッツを着用する)、足を完全に覆う靴(サンダル等は避ける)、帽子、手袋を着用し、首にタオルを巻く等、肌の露出を少なくすることが大事です。
服は、明るい色のもの(マダニを目視で確認しやすい)がお薦めです。
虫除け剤の中には服の上から用いるタイプがあり、補助的な効果があると言われています。また、屋外活動後は入浴し、マダニに刺されていないか確認して下さい。特に、わきの下、足の付け根、手首、膝の裏、胸の下、頭部(髪の毛の中)などがポイントです。
(厚生労働省ホームページより)
皮膚科医からのアドバイス
マダニが怖い訳-重篤な感染症にかかる可能性がある事-
マダニは動物や人の血液を栄養源として生きているので、マダニに刺されることで野生動物に感染していたウイルスや細菌が人に感染することが稀にあります。感染するウイルスや細菌によっては致死率が高いため問題になっており、ここ数十年のデータではゆっくり確実に増加しています。
※ただし、これらの病気が報告されるのは年間数百件で、実際にマダニに咬まれても発症しない場合がほとんどです。医療機関を受診しない方も多い事を含めると、もっと多くの人がマダニに咬まれていると考えられます。マダニに咬まれた全ての方がマダニの媒介する感染症になるわけではありません。
マダニとは?
マダニは、小さな寄生虫で、血を吸うことで成長します。通常は森林や草むらなど自然環境に生息、特に春から秋にかけて活動が活発になります。マダニの体長は数ミリ程度で、刺されても痛みは全くないため、刺されたことに気付かないケースが多く、数日後にプクッと膨らんだ虫体が付着していることに気付いて皮膚科を受診される方がほとんどです。

マダニの取り方
マダニは口器というドリルのような構造物を使って動物や人から吸血するので、口器が残存していると、炎症が長引いてしまいます。口器を完全に除去することが大切です。
皮膚科での除去は咬まれた部位の異物反応・遅延型アレルギー反応の予防を目的に行います。咬まれた部位の周囲に発赤や腫れがあったり、ダーモスコピーで何か異物を認めた場合は、ちぎれた口器が残っている可能性を考えて、局所麻酔をして皮膚を3mmほど切除することがあります。
マダニが皮膚に咬みついていることに気がついたら
痛みなど症状がないことが多く、血を吸うと小豆大のホクロ状に膨れることがあります。下記の注意を守って速やかにご連絡いただきますようお願いします。
①無理に引きちぎったりせずそのまま受診してください。
②自然に取れた場合、スマホ等で撮影するか虫体を袋・容器に入れて持参してください。
マダニが媒介する感染症
マダニに咬まれると何が問題かというと、マダニに刺されることで野生動物(シカ、イノシシ、ネズミ、ウサギなど)のウイルス、リケッチア、スピロヘータ、細菌をヒトに感染させてしまう可能性があるということです。
代表的な感染症を下記に挙げておきますので、ご参照ください。
【重症血小板減少症候群:SFTS】

SFTS(severe fever with thrombocytopenia syndrome)は2009年に中国で発見された、新種のウイルスが原因の疾患です。日本でも2024年は120例の報告があり、死亡された方は11名となっています。マダニに刺された後、1-2週間の潜伏期を経て下痢・嘔吐・腹痛などの胃腸症状が出現し、その後血液の異常が生じる病気です。死亡率が20-30%と高い疾患と恐れられており、最近ではヒト-ヒト感染するということが明らかになっていますが、昨年2024年8月7日にアビガン錠200mg(一般名ファビピラビル:薬価3万9862.50円)が「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルス感染症の治療薬」として承認されましたので、今後の報告に期待したいところです。
【日本紅斑熱】

日本紅斑熱は、マダニが持つリケッチア・ジャポニカという病原体で起こる感染症です。関東地方より西で多く、2023年(暫定)501例の報告があり、症状はマダニに刺されて2~8日後に高熱と全身の赤い発疹(体幹から手足に広がり、手のひらや足の裏にも見られます)があらわれます。また、刺された皮膚には「刺し口」と呼ばれる黒いカサブタができます。刺し口は脇の周りや下腹部、太ももの内側など、柔らかい部分に多く認められます。
日本紅斑熱は①高熱、②発疹、③刺し口が特徴ですが、マダニに刺されたことに気づかない人が多いため、病歴や症状から判断することが重要です。他の高熱と発疹の病気もあるため、注意深い診断が必要です。治療にはテトラサイクリン系の抗菌薬が有効であるため、適切に治療すれば治ります。しかし、時には血小板が低下したり、臓器障害が進行することがあるため、重症化に注意が必要な疾患でもあります。
マダニ咬症の治療とその媒介する感染症に関して解説しましたが、外来でもお話しするように、マダニに刺された方の全てが、このような感染症を発症するわけではありません。(実際の発症率はマダニに刺されても医療機関を受診しない方が多数いるため不明です)
ただし、刺された後に熱が出る、下痢・嘔吐・腹痛などの消化器症状が出る、皮疹が出るといった症状がある方は速やかに医療機関を受診していただきますようお願いします。
薬局およびドラッグストアの薬剤師・登録販売員の方々へ
有効成分が「ディート」あるいは「イカリジン」の虫よけ剤、マダニ除去器具などをご購入される方へは、使用方法・使用上の注意等に加えて「万が一、マダニに刺された時」の注意事項として下記の情報提供を必ず行っていただきますようお願いします。


※イヌやネコなどのペットに吸着したマダニの除去に用いられるマダニ除去器具を利用する場合、これらは決して医療用器具ではありませんので、使う人の自己責任で用いる必要があります。
※ご自身でマダニを除去した場合、その虫体を捨てずに保管しておくと、その後に何らかの病気が発症した場合の重要な試料になりますので、医療機関を受診する際は必ず持参してください。
また、虫刺されに対する治療薬の購入を希望される方の中で、ダニに刺された方および野外作業や農作業・レジャー等で、ダニの生息場所に立ち入られた方でマダニ咬症が疑われる場合は、速やかに医療機関への受診を促していただきますようお願いします。
薬剤師 堀 正二
