当院では、今回紹介する「リウマチ性多発筋痛症(polymyalgia rheumatica:PMR)」の早期発見と早期治療により悩んでいた筋肉痛や関節痛が楽になり日常生活が支障なく過ごせるようになった患者さんを多く経験しています。
この病気は適切な診断と治療により症状が比較的速やかに改善する代表的な病気の一つであり、早期発見と早期治療がとても大切です。
内容が自分に当てはまるという方は、医師・薬剤師・スタッフにご相談いただきますようご案内申し上げます。
リウマチ・膠原病内科 黒﨑 奈美
【リウマチ性多発筋痛症とは】
リウマチ性多発筋痛症は頸部、肩、腰部、大腿など四肢近位部の痛みやこわばりを生じる原因不明の炎症性疾患であり、50歳以上の中高年の方に多く認められる病気です。病名は「リウマチ性」となっていますが、関節リウマチとは関係なく、この病気はステロイドが劇的に症状を緩和してくれることがわかっており、その後の見通し(予後)の良好な病気です。

【特徴的な症状について】
当院では、ある日突然「痛くて寝返りをうてない」「痛みやこわばりで起き上がれない」「肩や腕があがらなくなった」などの症状を訴えられて受診される方がみえられた場合、リウマチ・膠原病内科での診察をお勧めしています。発症日を覚えているくらい比較的急激に発症し、起床時から午前中に症状が強くて関節痛を伴うこともあり、関節痛は手指や足趾などの小関節よりも肩や股関節などの大関節にみられ、関節の腫脹を呈する例は少ないことなど、特徴的な症状は認められますが、専門医でなければ関節リウマチや他の疾患との鑑別は難しいためです。

後頸部~肩、上腕にかけてと、腰背部~股関節、大腿部に筋肉痛やこわばりを生じ、痛みで首、肩、股関節を動かしづらくなります。そのため、全身症状として発熱、全身倦怠感、食欲低下、抑うつ状態、体重減少があります。血液検査ではCRPの上昇など炎症反応を認め、リウマトイド因子等の自己抗体反応は認められない事などがあげられます。
【リウマチ・膠原病内科での診断と検査について】
リウマチ性多発筋痛症の診断には、ヨーロッパリウマチ学会・米国リウマチ学会によるリウマチ性多発筋痛症の分類基準 (ACR/EULAR 2012)を用いて診断を行います。この基準では、① 50歳以上 ② 両肩の痛み ③血液検査等で炎症反応の上昇を満たすことが必須条件で、さらに臨床症状(45分以上持続する朝のこわばり、臀部痛または股関節の可動域制限、肩関節と股関節以外に関節症状がない)、検査所見(リウマトイド因子、抗CCP抗体が陰性)、関節超音波(エコー)検査所見(肩峰下滑液包炎、三角筋下滑液包炎、転子滑液包炎を検出)などからリウマチ性多発筋痛症を疑います。しかし、実際のところリウマチ性多発筋痛症には特異的な検査所見がないため、除外診断(感染症、悪性腫瘍、他のリウマチ性疾患)を行った上での診断確定となります。
【リウマチ性多発筋痛症の治療について】
この病気はステロイドが劇的な効果を示します。患者さんごとの重症度、合併症等を考慮して、中等量までのステロイド(プレドニン12.5~25mg/日)が推奨されています。多くの場合薬剤服用の1-3日以内に効果がみられますが、短期間で効果があっても、一定期間(2~3週)初期服用量を継続し、急性期の炎症を完全に鎮静化させる必要があります。その後は症状や臨床検査の炎症所見の推移をみて、ステロイドを徐々に減量していきますが、早期の減量は痛みなどの症状の再発を起こしやすいとされていますので、減量は時間をかけて慎重に行うのが一般的です。

ステロイドの服用で劇的効果があるからと言って、簡単に減量したり、中止してしまうと、再び悪化する場合がありますので、必ず医師の指示を守って、決して自己判断でステロイドを減量・中止しないことが大切です。また、こめかみの頭痛や視力障害、顎跛行(噛み続けると顎が痛くなる)、高熱が続く場合は巨細胞性動脈炎という合併症の治療が必要になることがあります。その場合は速やかに診察を受けるよう心がけてください。
【治療中における生活上の注意点について】
基本的には治療後の見通し(予後)は良好であり、筋肉や関節破壊を来たすこともなく、臓器障害を来たすこともありません。以前は、この病気とがんを含む悪性腫瘍が併存しやすいとの報告もありましたが、最近では同年代の一般の方々と変わらないとされています。しかし、高齢者の場合は、この病気の診断に併せて、できれば悪性腫瘍のスクリーニングはしておくことも必要と考えています。
この病気そのものによって死亡率は高まりませんが、治療を継続する上で、ステロイドによる副作用(感染症、糖尿病、高血圧、脂質異常症、骨粗しょう症、消化性潰瘍、緑内障、白内障、筋肉量低下など)の影響を最小限にする予防対策は特に重要です。
また、特にステロイドによる高血糖や骨粗しょう症への予防対策として食事や運動療法にも心がけていただくことは必要ですが、病気そのもののために特別に気をつけることはありませんのでご安心ください。
【万が一、治療中にステロイド糖尿病を発症した場合について】
ステロイド薬はリウマチ・膠原病、気管支喘息、肺炎、皮膚疾患、アレルギー疾患、がんなど様々な病気の治療薬として使われます。 ステロイド糖尿病の病態は、インスリン抵抗性と肝臓からの糖放出の亢進により引き起こされます。また、ステロイドは筋肉や脂肪組織といったインスリンに反応して糖を取り込む臓器において、糖取り込みを抑制します。
このようにステロイドは、血糖値を上昇させてしまう作用を持ち合わせています。糖尿病を発症していなかった人は、一時的に高血糖になってもステロイド薬を減量・中止すれば血糖値は下がりますが、治療の必要性から長期にわたる服用を継続する場合や、治療を行わずに高血糖を放置した場合は、ステロイドをやめても高血糖が続き、糖尿病が残存する場合があります。

当院ではリウマチ・膠原病内科に加えて、糖尿病専門外来も設けております。
ステロイド糖尿病を発症させないためにも、治療開始と共に糖尿病専門医の診察を並行して受けていただくようにしていますので、下記の記事もご参照ください。
【ステロイド糖尿病に関する当院の治療方針について】
【糖尿病などの基礎疾患を持たれていない方の場合】
ステロイド治療により、食欲増進作用により過食傾向となるため、基本的には体重増加に注意が必要となりますので食事療法を基盤に、必要に応じて経口糖尿病治療薬( DPP4阻害薬、メトホルミン、αグルコシダーゼ阻害薬、グリ二ド製剤)を用ることから治療を開始します。血糖コントロールが不良の場合は、インスリンやGLP-1受容体作動薬による治療を必要とする場合があります。
【既に糖尿病の治療を行っている方の場合】
ステロイドによる血糖上昇作用が治療開始とともに出現する場合が多いため、ステロイド開始直後からこまめに診察を受けていただく必要があります。特に、随時血糖値300㎎/dlを超えるなど緊急性を要する場合は速やかにインスリンの導入を行う、あるいはインスリンを導入済の方にはインスリンの使用量(単位数)の変更やGLP-1受容体作動薬などの新たな治療薬を追加する場合があります。
≪参照:ステロイド薬の作用時間≫
治療に使用するプレドニンは 投与後2~3時間後に上昇し、
5~8時間後にピークに達します。
ステロイドによる血糖上昇作用の日内変動を考慮しながら、低血糖のリスクを最小限に抑えるために、基本的には前述の内服治療薬や超速効型インスリン、持効型(基礎)インスリンを使い分けていきます。ステロイド薬は通常、朝内服するため、昼から夕にかけて血糖値が上がり、早朝空腹時血糖値は低い傾向が認められるため、自己血糖測定値に基づいてインスリン治療の場合はインスリンを打つタイミングや投与量(単位数)をきめ細かく調整していきます。
また、GLP-1受容体作動薬は、ステロイド治療による食欲増進作用に対し抑制的に働いてくれますので、食後高血糖抑制効果を期待するとともに、早朝空腹時の低血糖リスクも少ない利点にも着目して使用する場合があります。
基本的には当院で通常行っている糖尿病治療を並行して継続していただく形になります。治療薬や注射に伴う手技あるいは治療経過に関して、ご不安に感じられる場合は遠慮なく申し出ていただきますようお願いします。
院長 足羽 敦子
【治療を受けられる方へのサポート体制について】
治療においてはインスリンやGLP-1受容体作動薬による治療を導入することがあり、自己注射、自己血糖測定の手技を覚える必要がありますので、早期に看護師や薬剤師からの適切な指導と共にサポートを開始させていただきます。(患者さまにとっては同時に 2 つの 手技をおぼえなければならず、負担となることが予測されるためです)
特に、服薬や自己注射・自己血糖測定の手技等、お困りのことがあれば遠慮なく申し出ていただきますようお願いします。
また、ステロイド治療により、食欲増進作用により過食傾向となるため、体重増加に注意が必要となりますので食事療法についてもサポートさせていただいております。
さらに、長期にわたってステロイド治療が必要な方は、骨粗鬆症による骨折の危険性があるため、運動療法についても積極的に行っていただくようにしています。

ステロイドの服用は長期にわたることが多いため、症状は無くなったのにいつまで治療を続けなければならないのかなど、ご不安になられることもあるかと思います。
治療薬の副作用や危険な合併症を含むリスクを回避しながら、痛みの等の症状を再燃させないようにするためには、医師の指示を守っていただき、共に歩む気持ちが大切です。
医師に限らず、何気ない会話でも結構ですので、いつでも遠慮なく薬剤師・看護師・スタッフにお声がけいただきますようお願いします。
薬剤師・看護師・スタッフ一同