生活習慣の中で健康に最も影響がある日常的な食事については関心が高く、食事が体に様々な影響を与えていることはみなさんご存じだと思いますが、食事を健康に役立てるポイントは、食べる量や栄養成分のバランスだけではないことや、お薬を服用する上でも食事の摂り方などの生活習慣が様々な影響を及ぼしていることをご存じでしょうか?
今回は、睡眠の質を改善するための食事とお薬に関する摂り方(服用方法)について薬剤師の視点から解説したいと思います。

薬剤師 堀 正二
「眠くなるホルモン」は、実は食事から作られていた!?
睡眠の質を改善する食事として「メラトニン」の原料となる「トリプトファン」というタンパク質を積極的に摂取することが推奨されています。特に朝食で補っておくことが効果的と言われているのも、体に取り入れてから「メラトニン」になるまでの時間を考慮する考え方でもあります。「よく眠れるかどうか」は夜だけの問題ではありません。実は朝の過ごし方や食事が、夜の眠りに大きく影響することは栄養学の領域では常識でもあります。

眠気を引き起こすホルモン「メラトニン」は、体内で時間をかけて作られます。その出発点となるのが「トリプトファン」というアミノ酸で、たんぱく質を多く含む食材に含まれています。「トリプトファン」は、体内で複数のビタミンやミネラルが関わりながら、「セロトニン」というホルモンに変わり、「メラトニン」へと変化します。
朝にしっかりと栄養をとり、朝日を浴びて、日中を活動的に過ごすことで、夜には自然な眠気が訪れる体のリズムが整っていきます。夜ぐっすり眠るための“体の準備”は、朝から始まっているのです。
糖尿病の方に限らず健康な方であっても睡眠導入の鍵を握る栄養素として「トリプトファン」が脳で働くためには「インスリン」という血糖値をコントロールするホルモンが重要なカギを握っています。「トリプトファンはインスリンが不十分な状態で摂取しても脳内に入れません。つまり睡眠不足の状態でいくら摂取しても、眠れるようにはならない」と考えられていますので、朝のうちに摂取して日中にしっかり「メラトニン」を作ってもらって、夜に「メラトニン」に働いてもらうのが理想的と言えることはお分かりいただけると思います。

このように、もともと体に備わっている様々な機能を意識して、じっくり取り組む姿勢が大切であり、より有効に食事やお薬を使うために、私たちは「体内時計を意識した自然な改善方法」をお勧めしています。
ネット社会では「これであなたは熟睡できます!」などと単純なキャッチフレーズの基にたくさんの記事がありますが、みなさんの体と生活様式はまちまちであり、どの情報が自分に適した情報なのかを判断することは非常に難しいはずです。
そんな時に最も頼りになるのが個々の体とライフスタイルを熟知している「かかりつけ医」と「かかりつけ薬剤師」であることを、是非認識していただき、まずは相談することから始めていただければと思います。
よくある質問も中でも①お薬の使い方、②嗜好品やサプリメントに関する注意点、③光と睡眠について、薬剤師として最も注意してほしい点を挙げておきますので、参考にしていただけると幸いです。
Q:寝るためのお薬だから寝る前に飲まないといけないの?
睡眠導入剤のひとつである「ラメルテオン(商品名:ロゼレム」というお薬を薬局で受け取られた方はご存じだと思いますが、「食事をした直後に服用すると、薬の成分の吸収が遅れたり、血中濃度が十分に上がらなかったりするので、ロゼレムの効果を最大限にするために、夕食後すぐに飲むのは避けましょう。ある程度時間を空けて、胃の中が消化され空腹に近い状態になってから、就寝前に服用してください。」と基本的には薬剤師さんからは指導を受けているはずです。
しかし、正しく服用しているにもかかわらず翌朝の不快感が続くようであれば、薬が体に合っていない、または効きすぎている可能性があるので、時に医師から「服用時間を夕食後に変えて様子を見てください」と指示されることがあります。
この背景には興味深い研究報告(J Clin Sleep Med. 2022;18(12):2861–2865.)があり、「超少量のラメルテオンを夕方に投与することで睡眠リズムの前進効果が期待できる」こともわかってきたからです。

この研究では、夜にラメルテオンを1錠(8mg)飲むと、翌朝~昼の体内時計が遅れてしまう(夜型化する)時刻にまで成分が体に高濃度に残ってしまうことで、体内時計を前進させる作用を打ち消してしまい、効果がなくなってしまう可能性がある事を証明したものです。つまり、昼になっても「まだ夜である」と体に伝えることになりかねない。一方で、適切に減量すれば、翌朝への持ち越しを減少させられるため、体内時計を早め、翌朝の不快感の改善につなげられるというメカニズムが考えられています。
あえて薬の吸収量が少なくなる夕食後に服用してもらう意図はこのような研究結果に基づく工夫でもあります。
Q:寝酒って本当に眠れるの?
お酒は睡眠の質を下げるものなので、お薬とアルコールとの併用は睡眠改善を目的とした治療の妨げになり良くありません。そしてアルコール自体は脳の神経を麻痺させる作用があるので、注意力・集中力・反射運動能力等の低下が強くなることがあります。また依存症に陥る危険性もあります。

薬の有無に関わらずアルコールは気分をリラックスさせる程度に嗜むことが理想です。
Q:ロゼレムの代わりになる市販薬やサプリメントはありますか?
ロゼレムと同じ成分(ラメルテオン)を含む市販薬は、日本では販売されていません。
海外では「メラトニン」のサプリメントがありますが、日本では医薬品として承認されておらず、品質の保証がないため注意が必要です。

また、ドラッグストアなどで購入できる睡眠改善薬は、抗ヒスタミン成分を利用したもので、ロゼレムとは作用の仕組みが全く異なります。そのため、あくまで一時的な不眠への対処用であり、慢性的な不眠症の治療には適していません。
また、以前のコラム(【情報提供】海外渡航時のサポートに関するお知らせ)でも紹介した通り、有効成分として習慣性があるとして海外では持ち込み規制がある「アリルイソプロピルアセチル尿素」を含有する製品もあるので安易に使用せず、必ず薬剤師のアドバイスを受けるようにしてください。
Q:寝るときに光に関して特に気を付けることは?
朝の光が体内時計のリセットに重要なことは紹介しましたが、夜の睡眠前にも気を付けていただきたいことはあります。
特にスマートフォンやテレビなどから発せられる強い光は、メラトニンの働きを妨げてしまいます。体内時計を狂わさないためにも、寝る前には早めに部屋を暗くして、強い光を浴びないように過ごしましょう。

睡眠は,日中に活動した脳や身体を十分に休息させるためのものです。「夜に十分に眠れないので,朝が来ても疲れが取れない」といった睡眠障害は放置してしまうと様々な活動に影響が出るだけではなく、生活習慣病とも深く関わっていることがわかっています。
睡眠と生活習慣病の関係についてはすでに紹介したcolumn(睡眠と生活習慣病の深い関係について)をご参照ください。
